「社内で検討します」の、その先を調べた
BtoBの商談は、その場では決まらない。買い手はこう言う ―「社内で検討します」。その会議室に、売り手は入れない。本レポートは、その「見えない時間」を国内の一次データで追ったものである。全データに調査主体・時点・サンプル数を併記し、公開一次ソースで確認できなかった数値は採用していない。相関と因果は区別している。
この号が追う5つの問い
| RQ1 | 稟議には誰が・何人関わり、どれくらいかかるか |
| RQ2 | 稟議が止まる・戻される理由の上位は何か |
| RQ3 | 決裁者は案件の「何を」見て判断しているか |
| RQ4 | 買い手はベンダー資料を社内でどう使っているか |
| RQ5 | 「社内を通しやすかったベンダー」は何が違ったか |
00 3行でわかる、会議室の中
結論①:稟議は「情報不足」ではなく「人数と段階」で止まる
承認に1日以上=73.5%、稟議は8割超が2段階以上。課題の首位は「関わる人が多すぎる」41.0%。止めているのは資料の量ではなく、社内の説明コスト。
結論②:決裁者が見ているのは、機能ではなく「通る理屈」
機能比較表は46.2%に「影響しなかった」。有用なのはROI試算55.4%。問われるのは機能の優劣でなく、費用対効果とリスクの説明可能性。
結論③:ベンダー資料は、そのままでは会議室に届かない
68.4%が資料を「加工してから」社内共有。担当者は売り手の資料を社内向けに翻訳する編集者になっている。
会議室を象徴する4つの数字
| 73.5% | 稟議の承認に1日以上かかる(n=312) |
| 58.5% | 大型購買で意思決定に7名以上が関与(n=330) |
| 68.4% | ベンダー資料を「加工して」社内共有(n=317) |
| 46.2% | 機能比較表は購買判断に影響しなかった(n=330) |
出典:弁護士ドットコム(2024, n=312)/IDEATECH×デマジェン総研(2026, n=307・n=330)/IDEATECH×Bizibl(2026, n=317)。
本レポートが導く「会議室で負けない設計公式」
設計公式:
社内の説明者として支援
× 決裁者の問いに先回り
× そのまま稟議に添付できる形
01 買い手の最大の仕事は、もう「選ぶこと」ではない
良し悪しの判断は、営業に会う前にほぼ終わっている。残された難所は、その判断を社内の合議体に通し、稟議を突破することのほうにある。
そして止まる正体は情報不足ではない。買い手の40.7%は資料を読み切れていない。理由の首位は「長すぎる・情報量が多すぎる」でともに59.7%。
| 5.6→18.3人 | 低価格帯→高価格帯の関与人数(n=600) |
| 8割超 | 稟議が2段階以上を通る(n=307) |
売り手が陥る罠
商談が進まないとき、反射的に「資料をもう一本」渡す。だが止まる原因が情報量でないなら、資料の追加は担当者の説明コストを増やすだけ。
出典:IDEATECH×Bizibl 2026, n=317(40.7%・59.7%)/ワンマーケティング 2025, n=600(関与人数)/IDEATECH×デマジェン総研 2026, n=307。
02 「社内で検討します」は、外交辞令ではない
期間 ― 承認は1日で終わらない
「2〜3日」が最多52.5%。1日以上が計73.5%。大型購買は54%が半年以上を要する。
関与 ― 直属上長で終わらない
1段階で済むのは11.7%だけ。8割超が2段階以上、約2割が3段階以上を通る。
差し戻し ― ほぼ全員が経験している
起案者の97.2%が差し戻しを経験(参考値・n=107)。ただし、その理由は誰も測っていない。
一言でいえば ― 売り手が見ている「商談」は、買い手の社内では 起案 → 根回し → 承認×N段 → 決裁 という長い列の、入口にすぎない。
出典:弁護士ドットコム 2024, n=312(52.5%・73.5%)/ワンマーケティング 2025, n=600(54%)/IDEATECH×デマジェン総研 2026, n=307・n=330/エイトレッド 2025, n=107(97.2%・参考値)。
03 稟議は「情報不足」では止まっていない
| 稟議プロセスの課題(複数回答・n=312) | 割合 |
|---|---|
| 関わる人が多すぎる | 41.0% |
| 根回し・事前調整に時間がかかる | 35.9% |
| 対象範囲が広すぎる | 31.6% |
上位はいずれも「説明・調整のコスト」。「判断材料が足りない」は上位に現れない。
【計測の空白】 差し戻しはほぼ全員(97.2%・エイトレッド 2025, n=107・参考値)が経験しているのに、「なぜ戻されたのか」を選択肢別に聞いた国内調査は、確認できた範囲で存在しない。買い手の最大の障害が、業界の計測の空白地帯になっている。
出典:弁護士ドットコム 2024, n=312(41.0%・35.9%・31.6%)/エイトレッド 2025, n=107(97.2%・参考値)。
04 決裁者は、機能ではなく「通る理屈」を見ている
| 46.2% | 機能比較表は「購買判断にほとんど影響しなかった」 |
| 55.4% | 「ROI計算シミュレーター・投資対効果の試算」を有用と評価 |
決裁者は「選ぶ人」ではなく「承認する人」。机上で見ているのは製品ではなく「これは通していい案件か」という理屈。欲しいのは機能一覧ではなく、承認を正当化できる根拠。
出典:IDEATECH×デマジェン総研 第2弾(2026, n=330)/才流(2025, 経営層 n=393)/6sense(2025, n≈4,000)。
05 買い手は、あなたの資料を"翻訳"している
68.4%が、受け取った資料を「加工してから」社内共有する(n=317)。7割近くが、売り手の資料をそのまま流していない。
| 加工の中身(複数回答・n=217) | 割合 |
|---|---|
| 数値や図表だけをコピー&ペースト | 51.2% |
| 必要部分のスクリーンショット | 45.6% |
| ChatGPTなどのAIで要約 | 35.9% |
| 自分の言葉で要約 | 35.5% |
これらはすべて、資料を「社内で通る形に翻訳している」痕跡。担当者は、売り手の資料の"無償の編集者"をやらされている。しかも40.7%は資料を読み切れてもいない。
出典:IDEATECH×Bizibl(2026, n=317・加工の中身は複数回答 n=217)。引用時「リサピー®」表記。
06 社内を通しやすかったベンダーの3つの共通点
① 決裁者の問いに先回りした
ROI試算・費用対効果・リスクと撤退条件を、あらかじめ渡していた。(04章:ROI試算を55.4%が有用)
② 再編集コストを最小化した
切り出せる図表・冒頭の結論・稟議にそのまま添付できる形で作っていた。(05章:68.4%が加工して共有)
③ 担当者の社内説明に伴走した
関わる人数と承認段階に合わせ、承認者ごとの材料を設計していた。(02・03章:関与7名以上58.5%)
合意形成チームの高品質取引報告は2.5倍、最初に接触したベンダーが約8割を受注。いずれも相関であり因果ではない。
出典:Gartner Press Release 2025-05-07, n=632/2026-03-09, n=646(+20%・2.5倍・2倍)/6sense Buyer Experience Report 2025, n≈4,000(約8割)。相関であり因果ではない。
07 「社内で通る理屈」の設計原則
すべての原則は、一つの発見 ―買い手は資料を"翻訳"して社内を戦っている― から導かれる。
① 「読む」でなく「使う」を基準に作る
結論を冒頭に、図表は切り出せる形に。読了率でなく引用のされやすさ。
② 決裁者の3点を先回りして渡す
比較の理屈・費用対効果・リスクと撤退条件。機能でなく承認の根拠で勝つ。
③ 承認者ごとに一枚ずつ分解する
経理に費用対効果、情シスにセキュリティ、経営層に撤退条件を。
④ 商談を「社内提案の準備室」にする
「いつ決まりますか」を「どなたの承認で止まりそうですか」へ。
⑤ 測るのは商談数でなく到達率
資料が稟議に登場したか。商談後に計測点を一つ増やす。
出典:IDEATECH×Bizibl 2026, n=317(68.4%・40.7%)/IDEATECH×デマジェン総研 2026, n=330(46.2%・55.4%)・n=307(41.0%・35.9%・58.5%)/Gartner 2024, n=632(+20%)。
結び ― 買い手の担当者は、味方である。
BtoBの商談は、会議室で負ける。そして会議室に、売り手は入れない。入れるのは、資料と、担当者の説明だけ。
売り手にできる最良の支援は、その2つを「社内で通る理屈」として設計しておくこと。負ける相手は、担当者でも競合でもなく、「社内の説明コスト」そのものである。